津地方裁判所 平成3年(ワ)32号 判決 1994年12月22日
三重県度会郡玉城町妙法寺三九八番地一
原告
藤田化工株式会社
右代表者代表取締役
藤田延善
右訴訟代理人弁護士
相羽洋一
同
鷲見弘
同
大脇保彦
同
谷口優
同
原田方子
同
原田彰好
右輔佐人弁理士
岡田英彦
同
小玉秀男
同
山本江里子
三重県度会郡玉城町妙法寺三一六番地
被告
フジックス株式会社
(旧商号・藤田ビニール工業株式会社)
右代表者代表取締役
藤田通夫
同県伊勢市上地町一五三五番地三
被告
野原治
右両名訴訟代理人弁護士
倉田厳圓
右両名輔佐人弁理士
岡賢美
主文
一 被告らは原告に対し、連帯して金二七三万二六〇〇円及びこれに対する平成三年二月二二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 当事者の請求
主文同旨
第二 事案の概要
本件は、原告の有する捕魚器についての実用新案権を被告らが侵害したとして被告らが得た利益相当額の損害の賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告の実用新案権
原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その実用新案を「本件考案」という。)を有している。
(1) 登録番号 第一五八三〇六〇号
(2) 名称 捕魚器
(3) 出願日 昭和五六年一〇月一三日
(4) 出願番号 実願昭五六-一五二六九七号
(5) 出願公告日 昭和五九年六月二七日
(6) 公告番号 実公昭五九-二一六五七号
(7) 登録日 昭和六〇年一月三一日
2 本件考案の要旨
(1) 実用新案登録請求の範囲
「捕魚器体の骨格を構成するため、下底部に沿って基枠を設けるとともにこの基枠上に縦枠を組み付け、前記基枠と前記縦枠等に網を張設し、該網に魚の侵入口を設けた捕魚器であって、前記縦枠を円弧状に形成するとともに、その横幅を前記基枠の横幅より大きく形成し、しかも前記縦枠の最大幅の線を境として前記基枠側の重量を他側の重量より大きく形成してなることを特徴とする捕魚器」
(2) 本件考案の構成要件
A「捕魚器体の骨格を構成するため、下低部に沿って基枠を設けるとともにこの基枠上に縦枠を組み付けてあること」
B「前記基枠と前記縦枠等に網を張設し、該網に魚の侵入口を設けてあること」
C「前記縦枠を円弧状に形成するとともに、その横幅を前記基枠の横幅より大きく形成してあること」
D「しかも前記縦枠の最大幅の線を境として前記基枠側の重量を他側の重量より大きく形成してあること」
E「捕魚器であること」
(3) 本案考案の作用効果
本件考案の捕魚器は、縦枠が円弧状に形成され、しかもその横幅及び形状が基枠の横幅及び形状より大となっており、さらに縦枠の最大幅を境として基枠側を他側より重く形成されているので、水中へ投下する際にわざわざ重錘を使用する必要がなく、また水底において横転又は逆転した場合にも水流などにより適当に揺動して起き上がり小法師作用によって起き上がって正常位となり、基枠を下にして安定した状態に維持されるので、魚類は警戒することなく安心して捕魚器内へ侵入し、容易に魚類を捕獲することができる。しかも本件考案の捕魚器は水中へ設置する際に従来と異なって横転や逆転を心配する必要がなく、きわめて能率的に作業を行なうことができる。
3 被告ら
(1) 被告フジックス株式会社(以下「被告会社」という。)は、捕魚器等の製造販売を目的とする株式会社である。
被告会社の代表取締役である藤田通夫(以下「訴外通夫」という。)は、昭和三九年ころから藤田ビニール工業所の商号で漁網・漁網枠の製造販売を営んでいたが、昭和六三年二月二二日資本金五〇〇万円の全額を出資して藤田ビニール工業株式会社を設立し、その代表取締役になった。その取締役には訴外通夫の長男と同人の妻、監査役には訴外通夫の妻が就いており、実質的には訴外通夫の個人会社である。そして、藤田ビニール工業株式会社は、平成五年七月八日、その商号をフジックス株式会社に変更した(以下、藤田ビニール工業所を含めて「被告会社」ということがある)。
(2) 被告野原治(以下「被告野原」という。)は野原商会の屋号で漁網等を製造している。
4 被告らの製品
(1) 被告会社は、別紙物件目録一記載のとおりの捕魚器(以下「イ号物件」という。)及び別紙物件目録二記載の捕魚器(以下「ロ号物件」という。)の骨格を構成する基枠・縦枠等を製造し、これらを被告野原に供給、被告野原はこれらに網を張設してイ号物件及びロ号物件を製造して被告会社に納め、被告会社がこれらを販売している。
(2) イ号物件及びロ号物件は、別紙物件目録一及び同二記載のとおりに構成されており、いずれも本件考案の構成要件を充足している。
5 被告らの利益(損害)
被告らは昭和六三年二月以降平成三年二月までの間に、イ号物件及びロ号物件を合計一万三六六三個製造販売し、一個につき少なくとも金二〇〇円の利益を得ており、仮に被告らによる本件実用新案権侵害の事実が認められるとすれば、原告は右同額の損害を被った。
二 争点
1 先使用に基づく通常実施権の有無
2 許諾に基づく実施権の有無
3 公知技術による自由使用権の有無
三 争点についての当事者の主張の要旨
1 先使用に基づく通常実施権について
(被告ら)
(1) 被告会社の前身である藤田ビニール工業所は、昭和四二年ころから、漁業従事者よりの注文を受けて従来からあった烏賊網籠又は蟹網籠等について順次改良を行い、別紙図面ハ号物件説明図のとおりの捕魚器(以下「ハ号物件」という。)又はその枠組みを製造販売してきた。遅くとも昭和五三年には、枠組みの納入先である伊勢商会や漁師の注文を受けて改良を行ない、ハ号物件と同様のものを製造販売していたのであるから、藤田ビニール工業所は先使用による通常実施権を有する。
(2) ハ号物件の特徴は次のとおりであり、本件考案の構成要件を充たし、水中で横倒しになっても正常姿勢に自動復元するという作用効果を持っている。
a 捕魚器の骨格を構成するため、下低部に沿って基枠を設けるとともにこの基枠上に縦枠を組み付けられている。
b 前記基枠と前記縦枠等に網を張設し、該網に魚の侵入口を設けてある。
c 前記縦枠を円弧状に形成するとともに、その横幅を前記基枠の横幅より大きく形成してある。
d しかも前記縦枠の最大幅の線を境として前記基枠の重量を他側の重量より大きく形成してある。
e 捕魚器である。
(3) よって、藤田ビニール工業所はハ号物件について先使用権を有し、藤田ビニール工業株式会社及びその商号を変更した後の被告会社(フジックス株式会社)はその権利を承継しているから、実用新案法二六条、特許法七九条に基づき本件実用新案権について通常実施権を有している。
そして、被告野原は被告会社の指導のもとにイ号物件、ロ号物件の製造の一部を分担し、被告会社のみに納入していたのであるから、その加工行為は右通常実施権に属する実施行為である。
(原告)
ハ号物件がイ号物件・ロ号物件と構成要素を同じくし、その特徴が被告らの主張のとおりであることは認めるが、その余は否認又は争う。
被告会社は、せいぜい昭和五七年ころ従来型の捕魚器を製造し始めたのであり、ハ号物件を製造販売し始めたのは、本件実用新案出願後の昭和六〇年以降である。
2 許諾による実施権について
(被告ら)
平成元年六月ころ、原告は被告会社からイ号物件もしくはハ号物件を購入しており、少なくともそのころ、原告は被告会社に対して本件考案に基づく捕魚器の製造販売を許諾した。被告野原の加工行為も右実施権に属する実施行為である。
(原告)
被告らの実施権許諾の主張は否認する。
原告は、平成元年六月ころから同年一二月ころまで被告会社からイ号物件もしくはハ号物件を購入しているが、これは、原告が被告らに対して右製品の販売中止を求めたところ、被告らが残りを買ってほしいというので止むなくこれを購入したにすぎない。
3 公知技術に基づく自由使用について
(被告ら)
原告が考案したという捕魚器と同様の物は、烏賊網籠又は蟹網籠としておそらく明治年間から使用され、遅くとも第二次大戦後には漁民によつて使用されるようになっており、少なくとも本件考案は本件実用新案出願前に日本国内において公知・公用のものであつた。
(原告)
(1) 出願前に公知・公用の考案であることは、当該登録実用新案の無効事由となることはあっても、実用新案権侵害訴訟においては被侵害実用新案権が無効とされる審決が確定するまではこれを有効として取り扱われるものであり、抗弁たり得ない。
(2) 本件考案の出願前から存在していたカニ籠などと呼ばれる従来型の捕魚器は、本件考案の構成要件のうちその中心をなすC及びDの要件を欠き、本件考案の作用効果も備えておらず、原告が考案した捕魚器とは似て非なるものである。
また、被告らが主張するそれ以外の籠もいずれも構成要件Cが備わっておらず、また、その製造時期が明確ではなく、公知例とはいえない。
第三 当裁判所の判断
一 先使用に基づく通常実施権について
1 被告らは、被告会社の前身である藤田ビニール工業所がハ号物件もしくはそれと同様の捕魚器を、(1)昭和四二年ころ、(2)もしくは少なくとも昭和五三年ころ、製造販売していた旨主張するので、この点について検討する。
(1) 昭和四二年ころについて
この点に関して、訴外通夫は、昔からあった捕魚器を漁師の好みや注文にあわせて改良してハ号物件と同様の物を作ったと供述し、被告らはこれを裏付ける証拠として、漁協の組合員等の陳述書(乙三の1ないし3)を提出している。
確かに、右各陳述書によれば、三重県伊勢市東大淀町漁業協同組合が昭和四三年五月に藤田ビニール工業所から本件考案と同様の構造の捕漁器約一〇〇個を購入していた旨記載されており、また、「全国籠網漁具漁法集」(乙一三)によれば、カニ籠(小判型)漁が三重県四日市地方でかなり古くから行なわれ、愛知県においても昭和三四年ころには行なわれていたことが窺われる。しかしながら、右各陳述書及び証拠(証人永谷厚、被告会社代表者訴外通夫)によれば、右各陳述書は、いずれも被告らの輔佐人作成にかかる「藤田ビニール工業所から購入した捕漁器の説明」と題する別紙が添付されており、その陳述書の本文において、捕魚器の特徴として水底に入れたとき横倒しになっても正常姿勢(位)に自動復元する機能を有するから組合員の評判が良くそのため記憶している旨が記載されているが、その機能の説明部分は右別紙の捕漁器の機能の説明部分とほとんど表現まで同一であること、訴外通夫の加えたという改良についての供述が抽象的であること、以上の事実が認められ、これらに照らすと、訴外通夫の供述及び右各陳述書は当時の製造物件が本件考案と同様のものである旨の部分について採用することはできず、被告らの(1)の主張は認めることができない。
(2) 昭和五三年ころについて
この点に関して、被告らは、<1>ハ号物件(検証調書の写真9)、<2>被告会社の納入先である伊勢商会及びイスズ商会の陳述書(乙四、一〇)及びそれらのパンフレット(乙五、六)、<3>伊勢商会に対する請求書(乙八の1ないし4、九)、<4>漁協の組合員等の陳述書(乙三の4ないし6、七)を提出し、訴外通夫及び永谷厚も被告らの主張に沿う供述をしている。
しかしながら、以下の理由から、右供述及び証拠によっては被告らの主張事実を認めることはできない。
<1> ハ号物件について
ハ号物件は、イ号物件・ロ号物件と構成要素を同じくし、その特徴が被告らの主張のとおりであることは当事者間に争いがない。しかし、ハ号物件がその当時藤田ビニール工業所において製造されたものであることを裏付ける客観的証拠はなく、訴外通夫の供述のみによるものであるところ、その供述自体が同物件の入手保管状況に関してあいまいであり、他方、証拠(被告代表者訴外通夫、検証)によると、ハ号物件は、十数年前のもので実際に使用されたことのあるものにしては保存状態が良好でありすぎること、証人永谷厚もハ号物件は伊勢商会において昭和六二、三年ころから網を張っていたものであると証言していることからすると、同物件が昭和五二、三年ころ藤田ビニール工業所において製造されたものであると認めるには足らない。
<2> 伊勢商会が販売していた万能籠について
証拠(乙四ないし五、八の1ないし4、九、証人永谷厚、被告会社代表者訴外通夫)によれば、昭和五二、三年ころ、伊勢商会の永谷厚が漁師の意見を参考にして小判型の万能籠(以下「万能籠」という。)を考え、被告会社に枠を製造することを依頼したことが認められる。
そこで、万能籠が本件考案の構成要件を充たすかが問題となる。前掲各証拠及び証拠(甲一〇、証人中西孝美、検証)によれば、万能寵は本件考案の構成要件のうち、A、B及びEを充足し、さらにCのうち「縦枠を円弧状に形成する」点を充足していること、そして、その基枠の鉄線は縦枠より太いものにする場合もあったこと、海中に投げ入れて使用されていたこと、万能籠を考案した伊勢商会は、万能籠について軽くて持運び移動が簡単であり、折り畳み式になっていて船に沢山積めること及びビニール被膜線を使用しているので海水雨水に侵されないことが主な特長であると考えていたが、縦枠の横幅を基枠の横幅より大きくすることによって水底で起きる作用を備えることまでは考えていなかったこと、縦枠を製造していた藤田ビニール工業所は丸く形作った鉄線を基枠の幅にあわせて押し広げて作っていたこと、万能籠と本件考案を比較すると、本件考案の方は縦枠の横幅が基枠の横幅より明らかに大きいことが認められるが、万能籠の方はその縦枠がほぼ基枠に沿って形成されており、基枠の横幅より大きいかどうか明確ではないことが認められる。
以上の事実から、万能籠の縦枠はいずれも基枠とほぼ同じかそれを極わずか上回る程度であり、本件考案のように起上り小法師の作用を有するほどその差が有るとは認めがたい。また、仮に万能籠の中に縦枠の横幅が基枠より大きく本件考案のように起上り小法師の作用を有するものがあったとしても、その考案者である永谷自身がそのような作用を万能籠に付与することを意図していたとは認められないから、それが本件考案を実施していたものということはできない。
したがって、万能籠が本件考案の構成要件を充たしていたと認めることはできない。
<3> イスズ商会が販売していた魚介類捕獲かごについて
イスズ商会のパンフレット(乙六)及び同商会の代表者の陳述書(乙一〇)によれば、昭和五五年ころ藤田ビニール工業所が右捕獲かごの基枠をイスズ商会に納入していたことは認められるが、同パンフレットの写真からは、伊勢商会の万能籠同様縦枠の横幅が基枠のそれより大きいとは認められない。
したがって、右捕獲かごが本件考案の構成要件を充たしていたと認めることはできない。
<4> 漁協の組合員等の陳述書(乙三の4ないし6、七)について
これら陳述書は前記(1)と同様、にわかに措信することはできない。
よって、被告らの(2)の主張も理由がない。
二 許諾に基づく通常実施権について
1 当事者間に争いのない事実及び証拠(甲六の1、2、七、八、乙二一の1、2、二二、証人中西孝美、同掛橋成子、被告会社代表者訴外通夫)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
被告会社は原告に対し、平成元年六月から一二月まで、イ号物件もしくはハ号物件を合計二二九二個、単価一八五〇円ないし一九〇〇円で販売していること、しかし、その当時被告会社は同様の物件を単価二二〇〇円で販売していたものであること、本件考案の実施を認める書面は存在せず、被告会社は原告に対し実施料を支払っていないこと、藤田ビニール工業所が昭和五四年ころ、資金繰りが悪化した際、原告にその負債を立て替えてもらう代わりに、原告と競合関係にあった製品の製造を中止したにもかかわらず、その後事業を再開した際に製品を原告に買い取ってもらっていること、平成二年一〇月原告は被告会社に対して、イ号物件、ロ号物件の製造及び販売の禁止を命ずる仮処分を申し立てていること、許諾による通常実施権の主張が本件訴えの終結直前になされていること、以上の事実が認められる。
2 これらによれば、確かに、通常実施権の設定は書面によることを要さず、黙示によっても設定しうるが、実用新案として出願登録した者が黙示にしかも無償で実施権を設定する場合は極めて例外的であり、特段の必要性・合理性が認められる場合に限られると解されるところ、本件においては、被告会社の代表者が原告の代表者の兄弟であること以外には、その合理性を基礎付けうるものはなく、かえって、原告は被告製品について仮処分を申し立てていること等からすれば、原告が被告会社からイ号物件もしくはハ号物件を購入したことは、被告会社がその買い取りを申し出た結果であると認められるので、本件実用新案権について通常実施権を許諾したと認めることはできない。
したがって、許諾による通常実施権取得の主張も理由がない。
三 公知技術による自由使用権の有無について
1 被告らは、公知性を立証する証拠として、<1>有形民俗文化財調査カード(乙一二の1ないし4)、<2>全国籠網漁具漁法集の抜粋(乙一三)、<3>海の博物館の漁具の写真(乙一四の1ないし9)、<4>「フィッシャリー・ジャーナル」の抜粋(乙一五)を提出しているので、以下検討する。
<1>によれば、一番早いもので第二次大戦後ころ小判型の網籠が漁具として利用されていたことが認められるが、その説明図面では、いずれもその縦枠の横幅を基枠の横幅より大きく形成しているとは認められない。
<2>によれば、新潟県、愛知県及び三重県において折り畳み式のがざみ籠もしくは、小判型のカニ籠が本件実用新案出願前に使用されていたことが認められるが、新潟のがざみ籠は本件考案と構造が異なり、愛知県のカニ籠は、その図面が明確ではないが、その縦枠の横幅が基枠のそれより約一センチメートル小さいものであって、本件考案のCの構成要件を充足せず、三重県のカニ籠についてもその図面が明瞭ではなく、右Cの要件を充たすものであるか不明である。
<3>によれば、乙一四の1ないし9の捕漁器はいずれも本件考案の構成要件を充たしているようであるが、明確ではなく、仮に本件考案の構成要件をすべて充たしているとしても、これらの捕漁器を海の博物館が収集した時期、使用されていた時期は不明であり、本件考案の出願日以前に公知であった例として認めることはできない。
<4>によれば、「フィッシャリー・ジャーナル」という雑誌の二三二から二三三ページには、昭和五四年の各籠網による漁獲量の統計及び昭和五四年に出版された前記<2>の愛知県の捕漁器の図面、さらに小判型捕漁器が使用されている写真が掲載されている。しかし、右雑誌の出版は昭和六〇年であり、写真を撮った年月日が本件考案の出願日以前であるかどうかは不明である。
2 右に検討したとおり、被告らが公知性を立証するために提出する証拠はいずれも本件考案の出願の日より以前に本件考案が公知のものであることを立証するに足りるものではない。
したがって、被告らの主張はいずれも理由がない。
四 以上の次第であって、本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 窪田季夫 裁判官 橋本勝利 裁判官 舟橋恭子)
物件目録一(イ号物件の説明書)
一 物件の名称
捕魚器
二 図面の説明
第1図は捕魚器の全体を示す側面図、
第2図は同じく正面図、
第3図は同じく平面図、
第4図は同じく斜視図、
第5図は捕魚器の枠組構造を示す斜視図、
第6図は同じく平面図である。
三 物件の説明
この物件は海、川、池などの水中に沈め、内部に置いた餌によって魚類を誘い込み捕獲する袋状の捕魚器である。
まず、第5図及び第6図に示す捕魚器の骨格について説明すると、捕魚器の下底部を構成する基枠1は、金属の棒材によりほぼ小判形に曲折形成されており、中央部には該小判形を二分するように支軸2がその両端をそれぞれ基枠1を構成する両側枠棒に溶着されている。止め枠3は同じく金属の棒材により基枠1の二等分の形状、すなわち第5図及び第6図に向って支軸2より左半側の形状とほぼ同形の円弧状に曲折形成されており、その両側の末端部が支軸2に枢着されている。二本の縦枠4、4はそれぞれその末端部が支軸2の両端部で基枠1に溶着された半円状の支環2Aに枢着されている。
また、縦枠4、4の間には補助縦枠10が第6図に示すように前記基枠1の横幅Xとほぼ同様の横幅を持って円弧状に形成されており、その末端部が前記支環2Aに枢着されている。
基枠1には網5が張設され、また、第1図及び第4図に示すように二本の縦枠4、4を傾斜状に起立するとともに補助縦枠10をほぼ垂直状に起立した状態において、第1図における右半の基枠1と二本の縦枠4、4及び補助縦枠10と止め枠3との全体にわたって網5が張設されている。二個の係止具6、6は基枠1の第5図における左半側に適宜の間隔をへだてて回動可能に設けられており、止め枠3を第5図向かって左側へ回動した後、係止具6、6によって基枠1に係止すると、第4図に示すように右半側の基枠1から二本の縦枠4、4及び補助縦枠10を経て止め枠3に至る空間が網5によって覆われた袋状となる。また、魚の侵入口7、7は第1図における右半側の基枠1と右側の縦枠4との間、及び止め枠3と左側の縦枠4との間の網に、それぞれ内方へ突出して設けられ、外口が大径で内口が小径となっており、袋状の網5内において、ひも8により両側の侵入口7、7の内口部が互に引張られていて、侵入口7は内部へ向って先細りの円錐形の筒形を維持している。なお、掛止棒9な円弧状に形成されて網5内における支軸2に枢着されており、右半側の基枠1と止め枠3との間に張設された二本の張りひも11、11が巻回されて止め枠3の係止状態に伴って上方へ突設状態となり魚類を誘き寄せる餌を掛止するためのものである。
そして、前記基枠1に組み付けられた前記二本の縦枠4、4は第6図に示すように右基枠1の横幅Xよりも大きい横幅Yを持って円弧状に形成されている。
また、本捕魚器においては、第2図に示すAB線、すなわち、右縦枠4、4の最大幅部を結ぶ線を境として基枠1側の重量が他側より大きくなるように形成されている。
以上
物件目録二 (ロ号物件の説明書)
一、物件の名称
捕魚器
二、図面の説明
第1図は捕魚器の全体を示す側面図、
第2図は同じく正面図、
第3図は同じく平面図、
第4図は同じく斜視図、
第5図は捕魚器の枠組構造を示す斜視図、
第6図は同じく平面図である。
三、物件の説明
この物件は海、川、池などの水中に沈め、内部に置いた餌によって魚類を誘い込み捕獲する袋状の捕魚器である。
まず、第5図及び第6図に示す捕魚器の骨格について説明すると、捕魚器の下底部を構成する基枠1は、金属の棒材によりほぼ小判形に曲折形成されており、中央部には該小判形を二分するように支軸2がその両端をそれぞれ基枠1を構成する両側枠棒に溶着されている。止め枠3は同じく金属の棒材により基枠1の二等分の形状、すなわち第5図及び第6図に向って支軸2より左半側の形状とほぼ同形の円弧状に曲折形成されており、その両側の末端部が支軸2に枢着されている。二本の縦枠4、4はそれぞれその末端部が支軸2の両端部で基枠1に溶着された半円状の支環2Aに枢着されている。
基枠1には網5が張設され、また、第1図及び第4図に示すように二本の縦枠4、4を傾斜状に起立した状態において、第1図における右半の基枠1と二本の縦枠4、4と止め枠3との全体にわたって網5が張設されている。二個の係止具6、6は基枠1の第5図における左半側に適宜の間隔をへだてて回動可能に設けられており、止め枠3を第5図向かって左側へ回動した後、係止具6、6によって基枠1に係止すると、第4図に示すように右半側の基枠1から二本の縦枠4、4を経て止め枠3に至る空間が網5によって覆われた袋状となる。また、魚の侵入口7、7は第1図における右半側の基枠1と右側の縦枠4との間、及び止め枠3と左側の縦枠4との間の網に、それぞれ内方へ突出して設けられ、外口が大径で内口が小径となっており、袋状の網5内において、ひも8により両側の侵入口7、7の内口部が互に引張られていて、侵入口7は内部へ向って先細りの円錐形の筒形を維持している。なお、掛止棒9は円弧状に形成されて網5内における支軸2に枢着されており、右半側の基枠1と止め枠3との間に張設された二本の張りひも11、11が巻回されて止め枠3の係止状態に伴って上方へ突設状態となり魚類を誘き寄せる餌を掛止するためのものである。
そして、前記基枠1に組み付けられた前記二本の縦枠4、4は第6図に示すように右基枠1の横幅Xよりも大きい横幅Yを持って円弧状に形成されている。
また、本捕魚器においては、第2図に示すAB線、すなわち、右縦枠4、4の最大幅部を結ぶ線を境として基枠1側の重量が他側より大きくなるように形成されている。
以上
第1図
<省略>
第2図
<省略>
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
第6図
<省略>
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
第6図
<省略>
ハ号物件説明図
この捕漁器は、左に示す基本構造図の第1図の正面図、第2図の側面図のとおり、小判状の基枠1に円弧状の縦枠2を数個立設して網を張り、基枠1の上方に網囲いした膨出空間を形成すると共に、その膨出空間に魚の浸入口4が設けられ、さらに、縦枠2の最大幅Aを基枠1の幅Bより大きくなし、かつ、全体の重心Wを該最大幅Aの弦5より基枠1側に存在せしめ、第3図のように、捕漁器が横倒し姿勢になったとき、重心Wによる回転力によって基枠1を下になす平常姿勢に自己復元する姿勢矯正機能つきの構造になっていた。
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>